風景図ペルシャ絨毯
意匠名 : 風景図 (タスヴィーリー)
意製作地: イラン・カーシャーン
製作工房 : サニイーとタガッドスィヤーン
製作年代 : 1950年代
サイズ : 207×128cm
パイル素材 : 羊毛
織り密度(結び・横×縦/cm) : 8×8
ダラ・コレクション
ペルシアの伝統にはない遠近法を用いた西洋絵画調のペルシャ絨毯で、1950年代にカーシャーンの絨毯工房で壁掛け用の装飾品として、欧米向けに製作されたものと思われる作品である。
同時代、ケルマーンで製作されていた風景図絨毯に通じるものがある。フィールドの画面は、遠近法が守られた表現となっている。遠くに山が連なり、峰々が重なる間に、建物や樹木が散在する。対象物を判りやすく表現するためか、多少デフォルメして描かれている。放牧風景も描かれている。丘の隆起を利用して、大きな樹木が画面左上を覆うように伸び、鳥が2羽とまっている。背景は抜けるような青空である。画面中央は鹿の群れが主役のように描かれている。立派な角を誇る牡鹿がこちらを凝視している。その前には牝鹿、あたりに小鹿もいる。その周辺には緑豊かな草叢が赤い花を付けて存在する。ケルマーンの色調である。手前の小川に小さく描かれた、水禽や魚にはやや不自然さを感じるものの、歪みも少なく、しっかりと織り込まれた様は、本作が都市の工房で製作された作品であること物語っている。
ケルマーンの風景図だと、もっと細かい草木の描写になるだろうが、ここでは比較的に単調な面として捉えた表現部分が多く、ケルマーンの風景図のカーシャーン風アレンジといった感じになっている。メインボーダーの花文装飾も、花弁が連なったケルマーン風の花文が見られ、同様のケルマーン花文のカーシャーン風アレンジとなっている。しかし濃紺地を背景とした色調はカーシャーンらしいものとなっている。
ここに描かれる牡鹿の立派な角のモデルとして、英国の画家ヘンリー・エドウィン・ランドシーア(1802 - 73)の絵画などを模したのではないかという意見もある。
絨毯上部のサブボーダー上部、ブルーの湾曲した短冊のカルトゥーシュ内に、カーシャーン・Sh・サニイー・ヴァ・タガッドスィヤーンと銘が織り込まれており、2人の共作と思われる。サニイーはカーシャーンでも有名な工房であるが、イニシャルが異なるため別人であろう。
解説文
真鍋保夫