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世界最古といわれるシベリア、アルタイ山中のパズリク古墳(パズィルィク古墳)で発見された約2m四方の絨毯は、左右均等結び(トルコ結び)で277kn/inch2(4,290kn/dm2)、同位炭素測定方式による製作推定年代は紀元前5-3世紀。その西約180kmのバシャダルで発見された絨毯断片は左右非均等結び(ペルシア結び)で約300kn/inch2(4,650kn/dm2)、製作年代はパズリク絨毯よりさらに100年以上遡るといわれています。このknは結び、すなわちノット(knot)をあらわします。このノット数は、絨毯全体の結びの数をカウント、絨毯に費やされた手間を尺度として、その絨毯の価値を評価する手段に用いられます。また単位面積あたりのノット数の表示は、その絨毯の織り密度という品質のバロメーターとなります。ただし、メートル法とヤード法の国による慣習の違いがあるので注意を要します。

◆織り密度の一般指標 ―――― kpsi, knot/square inch (or dm, m)

<例>  400kpsi  400kn/in2,  600,000kn/m2,  6,000Pk/dm2,  6,000Tk/dm2,  6,000/dm2

メートル法では、平方メートルあたりだと数値が大きくなるため、平方デシメートルを採用する場合があります。Pk, Tk などはペルシア結び、トルコ結びの違いも同時に表記している場合の表記法。単位が記載されない場合もあります。

 

オリエント絨毯にはその地域独特の表示法があるので、以下に列挙してみます。必ずしも正確なものではなく、ある品質基準のバロメーターとなっていることが多いので、品質の目安として受取る必要があります。また、各地域の絨毯の特性や用いられるパイル糸の太さにより、それぞれの持ち味があり、織り密度が細かければ良いというものでもありません。

 

1.ペルシア絨毯 (ペルシャ絨毯)

ペルシア絨毯の起源をパジリク絨毯(パズィルィク絨毯)やそれ以前にさかのぼるかどうかは、議論の分かれるところです。絨毯のふるさとと呼ばれるように古い伝統をもつことに間違いはありませんが、16世紀以前に遡る現存するペルシア絨毯はなく、今日の絨毯への流れをもつ16世紀サファヴィー朝以降の美しい曲線美をもつ名品が数多く伝えられています。伝統的なタブリーズ、イスファハーン、カシャーン、ケルマーンをはじめ近代に発展を遂げたマシュハド、ナイン、クムなど主要産地を中心にイラン全土で今日も数多くの絨毯がつくられています。織り密度の尺度は、産地特有の表現が用いられる場合もあります。

◆イラン・タブリーズほかペルシア全体  ――― RAJ

<例>  50ラジ(50RAJ), 50×50

横1ゲレ(1gereh)≒6.5cmあたりのラジ(列)数。ラジとは列を意味し、16ゲレで1ザル(zar’)=約104cmにあたります。(ドザルdo-zar’などに使われる)

50ラジは、横幅1ゲレあたりに50列の結びがあることを指し、長さに対してはほぼ正方の結びが生じることから、50×50の結びがあることと同義で、ノット数に換算すれば、約6,000kn/dm2, 380kn/in2となります。タブリーズなどは1ゲレを7cmとして換算し、35ラジ、40ラジ、50ラジ、60ラジなどの商品が出回っています。65ラジの絨毯は6.5cm換算だと1cm四方に10×10の結びがあることとなり、7cm換算の70ラジが同様に1cm四方に10×10の結びをもつこととなります。これは1ミリメートルに1つの結びがある非常に緻密な絨毯で、近年の工房作品では、これよりさらに細かい織りのものも数多く見かけます。

◆イラン・ナーイーン (ナイン)  ――― la

<例>   チャハールラー chahar-la(またはチャールラー char-la), シェシュラー shesh-la, ノフラー noh-la

それぞれ糸を撚った本数を指す言葉で、糸の太さに対応し、織り密度に影響を与えることになります。ラーは、本。それぞれ4(チャハール)本、6(シェシュ)本、9(ノフ)本の意味で、2×2、2×3あるいは3×2、3×3の撚りが施されています。数が多いほど糸は太くなり、織り密度も粗くなります。

ノフラーは約40ラジ、シェシュラーが約60ラジ、チャハールラーで約80ラジの見当です。

2.トルコ絨毯

トルコの絨毯はアナトリア絨毯とも呼ばれ、12世紀、中央アジアからアナトリア高原に移動してきたトルコ系民族によって織り始められました。セルジューク朝からオスマン朝にかけてつくられた絨毯は、ヴェネチアの商人の手によってヨーロッパにもたらされ、大いに人気を博しています。

3.パキスタン絨毯

パキスタンの絨毯づくりは、16世紀ムガル朝のアクバル大帝がペルシアから織り職人を招聘し、ラーホールなどに宮廷用絨毯の工房を設立したのが始まりです。1947年のインド、パキスタン分離独立に際し、イスラーム教徒の国であるパキスタンには多くの織り職人が移住し、やがて生産性を重視した独自の絨毯づくりをスタートさせました。

 

◆パキスタン・トルコ――――――9/18, 10/20、11/22, 12/24、16/16, 16/18

横幅1インチあたりの結びの数、垂直方向1インチあたりのノット数を比のような形で表します。両方の数値を掛け合わせれば平方インチあたりのノット数がでます。パキスタンの絨毯では、ボハーラー・デザインと呼ばれるトルクメン・ギョーリ(紋章デザイン)の反復柄のものと、ペルシアン・デザインのものでは、織り構造が異なり、数値にある特徴が生まれます。ボハーラー・デザインのものは、9/18、10/20、11/22、12/24などで、よこ糸が一本のシングル・ウェフトのため、すべてのたて糸が同一平面上に位置し1つの結びに対して目数が2つとなってしまいます。一方ペルシアン・デザインのものはよこ糸を2本以上わたすダブル・ウェフトでたて糸が上下になり、裏からは1つの結びに対して下のたて糸の結び目1つしか見えないため、16/16や16/18のようにほぼ同数の比となってあらわれます。

 

4.インド絨毯

インドの絨毯づくりもパキスタン同様ムガル朝に端を発します。当初ペルシア絨毯に倣った絨毯づくりも、ムガル宮廷文化の影響を濃くしていきますが、帝国衰退とともに英国の管理下での絨毯づくりに受け継がれます。分離独立後は、カシミール、ラージャスターン地方とヴァラーナースィー地方で絨毯づくりが受け継がれています。

◆カシミール地方――――――16/16

パキスタンと同じインチあたりの縦横のノット数で表されます。

◆インド(バドーヒーおよびヴァラーナースィー(ベラナシ)地方)――――――5/40、9/60、12/60

最初の数字はビスと呼ばれ、横幅9/10インチあたりのノット数、あとの数字はブータンと呼ばれ、長さ41/2インチあたりのノット数。ヤードを基準としており、9/60だと(9×60)÷(0.9×4.5)で約135kn/in2となります。

 

5.中国絨毯

中国における絨毯づくりは古いようで新しいといった複雑な局面を見せます。それは中国絨毯が、中国中央部と異民族の支配する西域という2つの舞台を有するためです。西域における絨毯づくりは古く、紀元前3世紀頃の絨毯断片が発見されています。中国中央部では絨毯は明朝末期に中国らしい意匠のものが現れ、今日のウールやシルクの輸出向けの中国緞通がつくられるようになるのは19世紀末から20世紀になってからのことです。1904年のセントルイス万博で北京緞通が一等賞をとり、やがて天津緞通にも世界の注目が集まります。

◆中国・チベット―――――――――――90段 (90line)

横幅1呎(フィート)あたりの結び目の数。120段だと120/12で1インチあたり10ノット、10×10で100kn/in2となり、240段で400kn/in2となります。1フィートは約30cmですから、300段だと1cm四方に約10×10の結び目があるペルシア風の細かい織りの絨毯となります。

オリエントの絨毯――その概要とさまざまな品質表示

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第2章
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